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2021/10/18ブログ

朧月夜に似るものぞなき

この数か月で読んだなかでは、「葵」と「賢木」のあたりの話の展開が劇的で、一気に読み進みました。
まず、葵祭の見物の際に、後から来た葵上の車が六条御息所の車に乱暴を働いて場所を取ってしまうという車争いが起こります。祭りや花見の際に少しでもいい場所で観たいと思う人間心理は古今東西を問わないということでしょう。
この車争いのエピソードが心に残っていて、葵祭を一度観たいと思って、20年くらい前に一度見に行きました。源氏物語の登場人物は源氏に見惚れていましたが、私は、ゆったりと牛車を引っ張る牛がのどかな雰囲気を醸し出していていいなあと思いました。

その後、六条御息所が物の怪となって葵上を取り殺してしまいます。源氏と紫君の仲が深まるというある意味幸せなことも起きるのですが、桐壺院(源氏の父)が崩御し、源氏は政治的に不利な立場に追い込まれていきます。その後、前回の記事で述べた藤壺の出家が語られ、朧月夜君と源氏の密会が発覚したことが原因で源氏は須磨への退去することになります。

朧月夜君は、「葵」の一つ前の巻の「花宴」に登場します。宮中での宴が終わった後、源氏は、もしかしたら藤壺に会えるかもと一縷の望みを抱いて藤壺のあたりを忍び歩きますが、うまくいかず、弘徽殿の細殿までやってきます。戸口が空いていたので、そっと上がって中を覗くと、「いと若うをかしげなる声の、なべての人とは聞こえぬ、『朧月夜に似るものぞなき』とうち誦じて、こなたざまには来るものか。」【訳:すると、まことに若く美しい感じの声で、並の女房とは思えない人が、「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんで、こちらの方へ来るではありませんか。】(正訳 源氏物語 第2巻 117頁)
朧月夜君の言葉が「照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき」を踏まえている点も、朧月夜の登場場面の劇的さや優雅さに花を添えるもので、この登場場面はいいですよね。

朧月夜君は源氏の政敵の右大臣の娘で、右大臣は朧月夜を帝に入内させようとしていたのですが、源氏はこのことがわかった後も、朧月夜との密会をやめようとしません。そして、この密会が右大臣に露見してしまうというわけです。

このように、「葵」と「賢木」のあたりは展開が起伏に富んでいて、とても面白いと思います。  (松井 和弘)

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