2021/10/03ブログ
アンサンブル2(「ドン・ジョバンニ」)
「ドン・ジョバンニ」は、モーツァルトの代表的なオペラの一つで、「コジ・ファン・トゥッテ」や「フィガロの結婚」と同様に好きな作品です(「魔笛」はそこまで好きではないです)。
「ドン・ジョバンニ」には、モーツァルトのオペラの中でも魔術的な曲調が多く現れ、それが情緒に溢れた力強い歌唱と相まって劇的な効果をもたらします。それ以外の部分も名曲揃いで、全編を通じて飽きることのないオペラです。
本作は、スペインの伝説上の好色放蕩な貴族ドン・ファンが主人公で、彼は、何年か前に話題になった「〇〇のドン・ファン」の元ネタです。
まず、本作は、1幕冒頭で、レポレッロ(ドン・ジョバンニの従者)、ドン・ジョバンニ、ドンナ・アンナ、騎士長(ドンナ・アンナの父)、ドン・オッターヴォ(ドンナ・アンナの恋人)が入れ替わり立ち替わり現れて歌うところから始まります。これらは、ドン・ジョバンニのドンナ・アンナに対する悪行と騎士長の殺害という劇的な場面を歌っているのです。オペラの導入部分のつかみとして抜群で、綺麗ではあるものの不安感を煽る音楽で、心がざわつく魔術的な曲で聴衆は一気に物語に引き込まれるのです。
次に、私が本作で最も好きなアンサンブルは、2幕で、ドン・ジョバンニに変装させられて彼の身代わりになったレポレッロが、ドンナ・エルヴィーラ(ドン・ジョバンニの元恋人)、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴォ、ツェルリーナ(農民の娘)、マゼット(ツェルリーナの夫)に追い詰められて正体を見破られるシーンのアンサンブルです。
このアンサンブルに関して、1955年に録音されたヨーゼフ・クリップス指揮のウィーンフィルのものが私は一番好きです。というのも、ドンナ・アンナ役のシュザンヌ・ダンコの歌唱が魔術的としか言いようのないほど心を揺さぶってくるのです(ドン・オッターヴォの後に《Lascia amen all amia pena Questo piccolo ristoro; Sol la morte, o mio tesoro, Il mio pianto puo finir.》と歌う箇所が特に)。
「ドン・ジョバンニ」はよく上演される演目なので、生で何度も観ましたし、メットライブビューイングでも観ました。また、CDやDVDも何枚かは持っていますが、どれも上記のシュザンヌ・ダンコの歌唱と較べると、さらっと流して歌っているようにしか聴こえないのです。
コンサートにしてもオペラにしても、どんなにいいCDよりも生で聴いたり観たりする方が圧倒的にいいので、こういったことは本当に珍しく、シュザンヌ・ダンコの歌唱がいかに優れているか(あるいは私に合っているか)を示していると思います。
あまり時間が無いときには、この2幕のアンサンブルを聴いています。そうすると、それだけでも、大抵は幸せな気分になれるんですよね。 (松井 和弘)