2020/05/22ブログ
婚姻の無効に関する話2
前回取り上げたメアリー・スチュアートは、スコットランドの王女として生まれた直後にスコットランド女王となり、その後イングランドで刑死します。そのため、グレートブリテン島のイメージが強いですが、フランス王妃(フランソワ2世の妃)だったこともありました。しかし、不幸にもフランソワ2世は即位から1年余りで死亡します。
そのため、スコットランドに帰国した彼女でしたが、スコットランドでの激しい政争を乗り切ることができず、結局、スコットランド女王を廃位されてしまい、エリザベス1世の治めるイングランドに亡命します。
しかし、メアリー・スチュアートがイングランドの王位を主張し得る立場にあったことが災いし、彼女は、エリザベス1世と常に政治的な緊張関係に置かれます。そして、反乱を企てたとして、フォザリンゲイ城で処刑されてしまいます。
前回、オペラ『マリア・ステュアルダ』を取り上げましたが、1幕最後のクライマックスが、フォザリンゲイ城でのメアリー・スチュアートとエリザベス1世の対決シーンです。その中で、メアリーがエリザベスに対して、エリザベスが正式な婚姻の下で生まれたのではない、と叫び、エリザベスが激怒するシーンがあります。
どういう論理でそうなるのかしばらくよくわからなかったのですが、カトリックであるメアリーの立場からすれば、①ヘンリー8世とキャサリン・オブ・アラゴンとの間の婚姻は、ローマ教皇の許可を得られていないので無効になっていない、②そうすると、その後のヘンリー8世とアン・ブーリンの結婚は重婚になって無効である。③そうすると、その間の子であるエリザベスは正式な婚姻のもとで生まれた子ではない、王位継承権は無いという意味だろうと理解されます。(現代日本の価値観や法体系とあまりに異なることもあり、私はメアリー・スチュアートのこの主張には共感できないことを申し上げておきます。)
このロジックに気づいたとき、ああ、そういうことか、と思って謎が解けたような気持ちになりましたが、普段の生活や仕事に特に役立つことはありませんでした。しかも、オペラ『マリア・ステュアルダ』は、ドイツの詩人シラーの戯曲が原作なのですが、フォザリンゲイ城でのメアリー・スチュアートとエリザベス1世の対決はシラーの創作ですので、歴史的な事実を深く理解できたということにもなりませんでした。
ちなみに、私が初めてメアリー・スチュアートのことを知ったのは、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部を読んだときでした。ジョナサン・ジョースターと戦うタルカスとブラフォードが、メアリー・スチュアートの忠臣だったという設定でした。ブラフォードの「LUCK&PLUCK」、かっこよかったですね。(松井和弘)