2020/05/20ブログ
婚姻の無効に関する話1
前回、婚姻の無効を巡って歴史上、様々なドラマが生まれたと書きましたが、そのうち、政治的・社会的に最もインパクトがあったのは、ヘンリー8世のケースでしょう。
16世紀前半のイングランド王であるヘンリー8世は、最初はキャサリン・オブ・アラゴンと結婚しており、彼女との間に王女メアリー(後の女王メアリー1世)が生まれました。
諸般の事情があって、キャサリンとの間の婚姻を無効にしたいと考えたヘンリー8世は、ローマ教皇に許可を求めますが、キャサリンは、当時最も影響力のあった君主カール5世(スペイン王国と神聖ローマ帝国の支配者)の叔母でした。そうしたこともあって、ローマ教皇は婚姻の無効の許可を出しませんでした。(ややこしいので説明を省きますが、教会法上、ヘンリー8世とキャサリンとの間の婚姻の無効は通常の場合よりもハードルが高いという事情もありました。)
そこで、ヘンリー8世は、イングランドの教会をカトリック教会から離脱させ、英国国教会を創設し、自らその長となります。そうすることによって、ローマ教皇の許可を得ることなく婚姻を無効にすることができるようになったわけです。
そして、ヘンリー8世は、キャサリン・オブ・アラゴンとの婚姻を無効とした後、アン・ブーリンと結婚をし、彼女との間に王女エリザベス(後の女王エリザベス1世)が生まれます。しかし、その後、アン・ブーリンはヘンリー8世により処刑されてしまいます。この処刑は、えん罪によるものだと言われています。ちなみに、ヘンリー8世はその後4回結婚します。
アン・ブーリンの処刑を扱ったオペラが、19世紀前半のオペラ作曲家ドニゼッティの『アンナ・ボレーナ』です。
ドニゼッティは、メアリー・スチュアートの処刑を扱った『マリア・ステュアルダ』、エリザベス1世を扱った『ロベルト・デヴェリュー』も作曲しており、これらの3つの作品を、当時の王朝の名前を取ってテューダー朝三部作、または女王三部作と言います。
私は、これらの3つの作品の中では(というよりもドニゼッティの全作品の中でも)、『マリア・ステュアルダ』が最も好きで、最初に観たときには衝撃を受けました。(松井和弘)