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世を背きたまふよし仏に申させたまふに・・・

読み続けられるか不安だったのですが、あの後も、少しずつ源氏物語を読み進めています。「夕顔」、「若紫」、「末摘花」、「紅葉賀」、「花宴」、「葵」、「賢木」、「花散里」、「須磨」、「明石」ときて、今は「澪標」の途中です。今で、やっと全体の4分の1くらいでしょうか。次のブログ担当のときまで、読み続けられているか依然として自信が無いですが・・・

さて、今回読んだあたりで、物語が大きく動きます。
「若紫」では、源氏が紫君を垣間見て感激する場面が出てきます。何故か印象に残る「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠の中に籠めたりつるものを」と紫君が尼君に言う場面です。「犬君(いぬき)」という名前が特徴的だからでしょうか。

「若紫」は、もちろん紫君関連の話が中心なのですが、源氏と藤壺との二度目の過失のエピソードが稲妻のように挿入されています。
その後、源氏は、「賢木」でも藤壺の女房の王命婦に手引きさせて藤壺と密会します。藤壺は拒絶しているのですが、源氏が押し切ってしまうという状況です。
2人が表立って会話するときは、藤壺は王命婦を介して会話し、源氏とは直接話をしません。例えば、「『九重に霧や隔つる雲の上の月をはるかに思ひやるかな』と、命婦をして聞こえ伝えたまふ。」【訳:「(幾重にも霧が中を隔てているのでしょうか。雲の上の月をはるかに思いやっております)。と、命婦を通じてお伝えになります。」】(正訳 源氏物語 第2巻 274頁)。

その後、藤壺の苦悩は深まり、とうとう出家してしまいます。出家の場面も劇的なのですが、その後の源氏と藤壺の距離感の変化の描写におおっと思うところがありました。
例えば、「参りたまふも、今はつつましさ薄らぎて、御みづから聞こえたまふをりもありけり。思ひしめてしことは、さらに御心に離れねど、ましてあるまじきことなりかし。」【訳:「その後は、君が宮の御もとに参上なさるのも、今は遠慮も薄らいで、宮ご自身でお話しになられる折もあるのでした。君のお胸に深く思いしめたことは、決してお心から離れませんけれど、今はましてあってはならぬことなのですよ。」】(同284頁)。
つまり、今までは王命婦を介してしか話さないようにしていたが、出家して源氏との距離感が質的に変わったので、今までのようにさすがに無理な関係を求められることもなくなったので、遠慮も薄らいで直接話をするようになったということなのでしょう。それでも源氏の藤壺に対する気持ちは変わらないけれども、藤壺が出家した以上は、今後も関係を取り結ぼうとすることは「ましてあるまじきこと」なのです。

懸想した相手と直接表立って話できるようになったのは、相手が出家した後、いわば相手が彼岸に行ってしまった後というのには、読んでいて何とも言えない感慨がありました。まあ、どうしようもないのですが・・・

葵上と六条御息所や朧月夜君についても書こうと思ったのですが、藤壺の話が長くなってしまってので、これらについては後日に譲りたいと思います。 (松井 和弘)
2021年10月05日